3. 意図せざる企業家。今も基本は、好奇心。
「企業家と言っても、私の場合は土台に好奇心があって、その好奇心が大きくなって企業のカタチをしているだけで…」。
若林は、そう言う。
次から次にアイデア商品を考え、それを自分の手で商品化していく。そのプロセスに魅力を感じている若林にとって、それは仕事とも趣味とも区別がつかない、自らの好奇心そのものである。だが、その好奇心を満たすためには、商品生産、販売、品質管理など、一人では到底できない膨大な作業があり、それが企業というカタチを取り、さらには利益を生み出すべき仕組みを作り上げる結果となったのである。
そういう意味で、若林は目指すべくしてなった企業家というより、「意図せざる企業家」と言えなくもない。
だからこそ、 70 歳を過ぎた今も、若林の基本は「世のために役に立つものを考える」こと一つであり、その企業家としての姿勢にはブレがない。
「この世の中には、邪(よこしま)なものと正しいものが半分ずつ存在しているんです。だから、自分の気持ちが邪になれば、本来、邪であるものも正しいように見えるようになってしまう。リーダーが邪な気持ちになれば、会社全体も邪になってしまう。そうならないように、リーダーは常に正邪の分別を正しく行い、気持ちをプラスに向けておかないといけない」という。
また、「世の中は、たらいの水のごとき」とも言う。
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社長室には、商品開発に欠かせない製図台も。新商品がこの部屋から生まれていく |
「たらいの中に水をいっぱいに張ります。その水を、自分の方に向かってかき集めようとすると、水は手をすり抜けて向こうに逃げて行ってしまう。逆に、水を向こうに押しやると、水は自然に自分の方に回ってくる。世の中は、それと同じ。まず自分が人に喜びを与えれば、それは時間がかかっても必ず帰ってくるんです」。
そう言う若林の社長室には、今も製図台が置かれている。そして、社員が帰社した静かな社内で、日夜、新しい商品開発に情熱を注いでいる。 |