“安全”を開発せよ! 〜世界初、夢のナット開発に賭ける〜
プロローグ. 「東大阪のエジソン」が見た夢
近年、鉄道や自動車、建造物など、あらゆる生活の現場で「安全性」が緊急の課題となっている。例えば、構造物などをつなぐために使われるボルトやナットという部品。この重要な役割を果たすボルトやナットが緩むことで大きな危険に発展し、場合によっては人の命に関わる大事故もしばしば起こる。
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国際的な学会で評価された「ハードロックナット」 |
そんな中、米国コロラド州デンバーで開催されたアメリカ機械学会の国際会議。2005年夏、この世界の研究者らが集う権威ある会場で、日本の一中小企業が開発した、あるナットが紹介された。そのナットこそ、「ハードロックナット」。何があっても絶対に緩まないナットである。
発表したのは、広島大学の澤俊行教授。その約 100 頁に及ぶ研究論文では、ねじの緩みのメカニズムが3次元有限要素法という研究方法で1年間に渡って解析されており、その中で「ハードロックナット」はどんな衝撃や振動を与えてもナットが回転しない(緩まない)独特のメカニズムであることが立証された。また、一般の緩み止めナットとは対照的に、外部の圧力に対して緩みの方向に向かっても復元する力が発生することが分かり、「緩み止めの製品としては最強である」と結論づけられている。
「ハードロックナット」の研究報告は、多くの関係者の間で関心を持って受け止められた。
そのナットを 30 年前に独自開発し、安全を保証する商品として製品化したのがハードロック工業社長、若林克彦その人である。
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“世界最強のナット”の生みの親である若林克彦 |
少年時代からモノづくりに人一倍の好奇心を抱いた。本格的に商品開発を始めた学生時代からこれまで 100 以上のアイデア商品を生み出し、今でも 50 の特許を持つ。その天賦の旺盛なる好奇心と発明家のごとき開発精神の結晶とも呼べるのが、2つの緩み止めナット「 U ナット」と「ハードロックナット」だった。この画期的な2つの商品を世に送り出した若林は、今や「東大阪のエジソン」とも呼ばれる。
しかし、彼が今の栄誉ある称賛を受けるまでには、多くの問題と苦難を乗り越えなければならなかった。アイデアの商品化や開発商品の販売、それらを実現するための企業経営…。趣味としてのモノづくりに興じていた一人の少年が、世界の大手企業が注目する夢の商品を開発するに至るまでの半生とは、どのようなものだったのか。発明と商品開発に賭けた一人の企業家人生を追う。
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