メガネはアイデア産業　〜小売りから仕掛けるメガネ革命〜

1. メガネ革命の仕掛け人

　その日、吉田は出張のため列車で福井に向かっていた。ふと、何げなく手に持っていた携帯電話が目に留まった。見慣れた携帯電話のアンテナを伸ばしたり曲げたりすると、面白いほどしなり感があった。しかも、形状記憶性も抜群。あるアイデアが閃いた。
　
「携帯のアンテナでメガネのフレームをつくれないだろうか」。
　どれだけ折り曲げても破損しないメガネは顧客にとっても魅力があるはずだ。吉田は早速フレームの加工メーカーに連絡、開発に着手した。試行錯誤の末、半年後に完成したメガネに、吉田は携帯電話をそのままイメージさせる「ケータイフレックス」という商品名をつけた。新商品は発売と同時に飛ぶように売れ、１万本売れればヒットと言われるメガネ業界で20万本以上の記録的大ヒットを飛ばした。さらに、商品は消費者ばかりでなく、大手メガネメーカーが製造技術を買うほどの高い注目を浴びた…。

　ビジョンメガネの創業者である吉田武彦が、メガネ業界きってのアイデアマンであることを否む者はいない。レンズのネジ穴を楕円形にすることでメガネのガタつきを解消した「ＲＶフレーム」や拭きやすいレンズ表面にボルトが出ていないメガネなど、これまでに開発した商品は数知れない。顧客に最も近いポジションにいる小売店のメリットを生かし、次々に新商品を世に送り出す吉田はまさに“メガネ革命の仕掛け人”である。

　そして、いままた自宅のパソコンでメガネを買うことができる「どこでもメガネ」ショッピングシステムを開設し、吉田は「メガネはメガネ店で買うもの」という常識をも根底から覆す。

　モノづくりの町に生まれ、人生の浮き沈みをメガネとともに歩んだ吉田。その後、メーカー的な発想でメガネ小売業に変革をもたらすに至った半生とはどのようなものだったのか。