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ホテル争奪戦での奇策
KEC独自の指導ノウハウを活かした社員教育会社「KEC実践教育企画(株)」は昭和59年の設立以来、順調な売上げを上げていたが、昭和61年、思ってもみないチャンスが到来する。大阪駅前にヒルトンホテルが出店したのだ。対象となるホテル従業員は実に450人。受注すれば、KECにとってはホテル業界初のビッグビジネスとなる。この受注を巡っては大手企業傘下の社員教育会社など数十社との間で激しい争奪戦が繰り広げられた。
「この仕事は何があっても絶対にウチが取る!」。早々とそう宣言した木村は、数々の奇策に出た。ホテルの支配人に研修内容を説明する際、木村は男女2人のトレーナーを同行させ、その場で研修内容のデモンストレーションを実演。また、ホテル業務をリサーチするため、東京ヒルトンホテルに客を装ってKEC社員3人を宿泊させたほか、同じようにして競合ホテルの業務やマニュアルまで徹底的に調べ上げたのだ。当然ながら、KECの経費は競合他社の数倍に膨れ上がった。しかし、顧客第一主義を貫くこうした木村の熱意はホテル担当者にも伝わり、450人の社員研修を見事に受注。さらに、40人のマネージャー研修や社長秘書研修、各種マニュアル作成のオマケまでついてきたのだ。木村はこのことで、人のために尽くすという利他心で事に当たれば、最終的には必ず自分に良い結果が返ってくるということを知った。 |