ビジネス・リンキング 〜塾経営から拓く総合教育の道〜
8. 少子化がやってきた!
バブル経済が崩壊して、日本経済が不良債権の処理に追われ始めた平成4年頃。塾・予備校業界にもこれまで見られなかった現象が見られるようになる。それは生徒の入学傾向にすでに表れていた。例えば、中学生の場合、これまで英語・数学・理科・国語・社会の5教科を受講する生徒が多かったのが、英語・数学・国語の3教科に絞る生徒が多くなっていた。また、入学時期も1年から入学する生徒が次第に減り、高校入試直前の3年から入学する生徒が増え始めたのだ。注意して見なければ、さして気にならない現象であるが、木村はこの数字を見て、「思っていたより早く来たな」と感じた。少子化である。
従来、子供の数が減少する少子化問題は昭和50年代後半から指摘されていた。国の人口統計によれば、問題が表面化するのは5年後のはずであった。それが、なぜこんなにも早く塾の入学傾向に表れてきたのか。木村は考えた。結論は不況以外にあり得なかった。バブル経済の崩壊後、深刻化する不況が少子化問題を先導する形で塾・予備校業界に忍び寄っていたのだ。また、世間では「国際化時代」「情報化時代」が声高に叫ばれ始めていた。さらには、学校教育も「ゆとり学習」を掲げた教育改革が進められるようになり、塾・予備校業界はいくつもの変化が複雑に絡らみ合う先の読めない時代へと突入する。
ちょうど同じ頃、木村はKECの社員やKECを巣立っていった卒業生など複数の知人から信じられない話を耳にする。当時、空前のブームを迎えていた英会話スクール。これらのスクールに通っていた彼らがトラブルに巻き込まれていたのだ。「80万円の高額ローンを組んで入学したのに、電話しても全然予約が取れない」「ネイティブの先生が授業中に日本語ばかりを話す」。これら一部の英会話スクールへの不満は枚挙にいとまがなかった。おまけにスクールは指導内容の不備に加え、教材まで売りつける始末である。さらに、この問題は木村の周囲だけで見られる出来事ではなかった。消費者センターには年間3000件もの苦情が寄せられ、不満を訴える生徒たちが街頭でビラを配る事態にまで発展していたのだ。当時の週刊誌もこれを「ぶったくり商法」と非難し、商業主義に走る一部の英会話スクールの強引さを叩いた。
木村は憤りを覚えた。
「同じ教育業界に身を置くものとして、こんな惨状を見過ごすことはできない」。
そして、木村は業界を驚かすことになる、ある秘策に出る。
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