ミラクルメーカー 〜リピート率・紹介率8割の旅行会社〜
4. 初めて見た国境線
ビラ配りの日の早朝、西は車で各大学を回り、ビラを置く。それが終わると、今度は逆の順路で大学を回り、アルバイトの監督をする。効率が悪いペアには、車を降りて直接配り方を指導した。
そのうち、チラシ配りの指導は、優秀なアルバイトに任せると、西は下宿で電話を取るだけで仕事を回すことができるようになった。
チラシ配りのアルバイト派遣業は、面白いように儲かった。しかし、何かひっかかるものがあった。
「こんなに楽してもうかるなんて、ずっと続けていく商売じゃない」
西には、沖永良部島で夜遅くまで働く父の姿が目に焼きついている。
西はチラシ配りのアルバイトを辞め、大学を休学することを決めた。そして、稼いだお金でアメリカへと留学する。将来、起業することを漠然と夢見ていたが、まだ具体的な目標を見つけられないでいた。
西はカリフォルニア大学バークレー校で英語を学んだ。しかし、3ヶ月後には授業をさぼり、グレイハウンドバスでアメリカを1周半する旅に出た。カリフォルニアだけではなく、アメリカ全土を見てみたいと思ったからだった。
夜行バスで西海岸の都市を移動し、国境を越え、メキシコの街・ティファナへと渡った時だ。
散策するうちに、西は街の外れまできていた。そのまま目の前にある丘を駆け上った。頂上まできて、西は息をのんだ。
丘の下には1本のフェンスが伸びている。向こう側は自由の国アメリカだ。このメキシコの地には、掘っ立て小屋が立ち並び、未舗装の道路から砂塵が舞い上がっている。フェンスで区切られたアメリカ側には、白亜の住宅とアスファルトで舗装された道路が続いていた。
フェンス1本挟んで、まったくちがう人生がある‥‥。西は、このとき初めて、世界の一端を見た気がした。
そして、マイアミからアメリカ本土最南端の地キーウェスト島へ向かった。キーウェスト島の途中にあるセブンマイルブリッジは、文字通り7マイル(約11キロ)もの長さの橋だ。
コバルトブルーの海の中に、一本の道路が伸びていた。そこに落ちる見たこともないほど美しい夕陽に、西は心を奪われていた。
「新聞やテレビだけでは、伝わらない世界があるんだな。その目で直接外国を見るのは、なんてすごいことなんだ」
「旅は学びの原点」という西の信念が、完成された貴重な体験だった。
そして、自分の一生を旅行業にかけようと決めた。 |