出会いを創造する 〜結婚情報サービスが拓く結婚新時代〜
7. 経営に“安心”なし
二代目社長に就任した 95 年からの5年間、邦春は「オーネット」の導入、ホームページの開設、プロバイダー事業への参入と、相次いで施策を打った。そのIT戦略は、業界をリードし、見事に軌道に乗せることができた。
ひとつの新機軸を打ち出した邦春は、さらに新たな展開を模索する。
一つは、就職や結婚など生活情報に関する総合ネットワークを計画していたディジットブレーン社(現・ SBI パートナーズ)とのアライアンスに、結婚情報サービスを提供する代表企業として参画。また、隆盛を極めていたファンドとのつながりも強めた。企業家として、時代の最先端を行くファンドとのつながりは、貴重なものだった。邦春は、彼らの傑出した経営手法を肌で感じ、その経験から多くのことを学んだ。
だが、そんな新たな展開を模索するチャレンジは、皮肉にも邦春に企業経営の真の厳しさを思い知らせることになる。
ある時、邦春は社長室で社内データをチェックしていた。すると、入会者が減少傾向をたどり、資料請求の数も減っていることに気づいたのだ。邦春は、即座に社内をチェックし、本社と各支店との考え方に大きなギャップが生まれていることをつきとめた。新展開に忙殺されている間、会社はいつのまにか統一感を失い、各自が目の前の仕事に追われ、全体の機能を高める視点がなくなっていたのだ。
「オーネットの立ち上げが軌道に乗り、やはり自分たちが業界では一番という慢心が生まれていた。それが、一番の失敗の元だった」。邦春は、後にこの時の失敗を、こう述懐している。
また、会員にインターネットをもっと自由に使ってもらうために始めたプロバイダー事業も、立ち上げ当初の 98 年から半年もしないうちに無料プロバイダーが登場。初期投資に億単位の経費をかけた一大事業だったにもかかわらず、たちまち立ち行かなくなってしまった。
邦春は、すぐさま担当役員のほとんどをポジション変えするドラスティックな改革を断行。そして、同和火災から営業統括および顧問、人事・労務・総務のスペシャリストを招聘した。
「経営に、これで大丈夫という安心はない。自分たちがやっている日々の仕事は、どういう意味があるのか。今、自分たちがやっていることを見失わないためにも、さらには当事者として改善の努力を怠らないためにも、トップは常に理念を言い続けなければいけない」。
それが、邦春が失敗から学んだ哲学だった。 |