“おもてなし”が夢を生む 〜タクシー業に賭ける親子100年の挑戦〜
第二部 多田精一(相互タクシー株式会社 会長)
8. 新商品開発がタクシーの未来を拓く
観光の街・京都に本拠を構える京都相互タクシーは今、国内外からの観光客に照準を当てたサービスを強化している。これは、観光客が指示する目的地まで実車するだけでなく、京都の名刹や季節ごとの見所といった新鮮な観光情報を自社のホームページで発信して、京都相互タクシー自らが京都観光の案内役を務めるというもの。現在、同社のホームページには1日1000件近いアクセスがあり、お客様は自分の好きな観光スポットを選択して、「ルートナビ」を使えば、乗車料金が瞬時のうちに分かる。
また、マイカーを相互タクシーの車庫に駐車し、そこからタクシーに乗り換えて京都市内をゆったりと観光できる「パーク&タクシー」という新サービスも始めている。
こうしたサービスの底流に流れているのは、「お客様に、乗車していただく」というタクシー会社の企業姿勢をさらに発展させた、「お客様を、おもてなしする」という発想である。
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「新商品開発が、新しいタクシー産業をつくる」と語る多田精一 |
「今では、京都の穴場の観光スポットや紅葉の時期などを問い合わせて来られる方も増えました。タクシー会社が積極的に情報を発信することで、今までタクシーでの観光を考えていなかった方々も、『この料金なら』と、お申し込みされる。これまでタクシー会社がターゲットとするお客様は、長距離が期待できるビジネスマンか夜の飲み客が大半でしたが、タクシー業界は価格競争に没頭するあまり、実は私たち自身がタクシーの利用者の幅を限定していたのかもしれません」。
こうしたタクシー需要の掘り起こし作業は、今や全社的な取り組みになっている。相互タクシーグループでは、 30 代の若手社員が週1回のペースで集まり、タクシー需要を掘り起こすアイデアを自由に出し合う「未来委員会」の取り組みが始まっている。この「未来委員会」は、製造業で言えば商品開発部のような役割を担い、まだまだ運輸業の色合いが強いタクシー業界では例を見ない先端的な取り組みだ。
会議では、さまざまなアイデアが飛び出す。高齢化時代を迎え、病院に通院する高齢者の方々に
、どうすれば乗りやすいタクシーを提供できるのか。また、子どもが犯罪のターゲットとなる「子ども受難」の時代。不安を抱えている親子に、タクシーはいかに貢献できるのか。新しいタクシー需要を開拓するアイデアはつきない。
これまでタクシー業界では、営業所や乗り場を設置して、利用者をいかに取り込むかを競う時代が長く続いた。だが、タクシー自由化後の企業には新たなビジネスモデルが求められている。
「タクシー産業は長い間、衰退産業と言われてきました。しかし、それは今までの規制の中で胡坐(あぐら)をかいたり、値下げ競争に明け暮れた結果に過ぎません。タクシー乗務員を車庫から市場に送り出せば、それで終わりというのでは、タクシー産業に未来はないんです。まず、経営者が変わり、お客様が求めているニーズを汲み取り、経営者と乗務員が一体となって商品を開発する。それが、相互タクシーが考える新しいタクシー産業の姿です」。
昭和初期という混乱の時代、タクシー業界に近代経営の基礎を築いた父・清。そして、平成の世へ。タクシー革命の火は、新たな開拓者精神を抱く精一のもとで燃え続け、再びタクシー産業に次代の道しるべを示そうとしている。 |