2. 手紙の効能
小売りは人の心を動かす仕事である。振り向いてもらえない人を、どうやってこちらに向かせるか。吉田は常にそのことを意識して仕事をしている。人の心を動かすひとつの手段が手紙である。
清水眼鏡時代、どうしても注文の取れない業者があった。吉田はメガネを売りに行った後、誠意を込めて礼状を出した。礼状は毛筆で書き、短時間で書くためにハガキ1枚にまとめた。1回や2回で思いが伝わるのは稀である。吉田は注文をもらえなくても何回も何回も訪問。そして、その後に決まって礼状を出した。すると、ある時、業者の心が動いた。初めて5ダースの注文を出してくれたのだ。
「それにしても、根気よく手紙を出したな」。
業者はそう言って、送られてきたハガキをズラリと机の上に並べた。数えると、ハガキは37通に達していた。
メーカーにとって、5ダースの注文は決して多いものではない。しかし、吉田はこの時、「気持ちを伝えるのは、言葉より手紙だ」と実感した。
それから吉田はどんな時も手紙を書くようになった。
仕事で会った人に送る礼状はもちろん、入社試験でビジョンメガネを訪れた学生にも自らの気持ちを手紙2枚にしたためる、という。
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