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起業家・吉田武彦・株式会社ビジョンメガネ前代表取締役

メガネはアイデア産業 〜小売りから仕掛けるメガネ革命〜

6. メガネは情報産業

 吉田はメーカーからメガネを買い付ける時、全て現金で支払い、一切返品をしなかった。そのため、従来の50〜60%の値段でメガネを仕入れることができた。また、メーカーとの約束事を守り、一度も反故にしなかった。こうした吉田のやり方は当時の業界では異例中の異例。従来からあるメガネ小売業の常識にとらわれない経営手法が、ビジョンメガネの急成長を後押しする。

 吉田は創業時、父親から3つのことを言われている。@手形を出すなA会社を大きくするなB保証人の判は押すなーの3つである。なかでも特に強調されたのは、10億円以上の仕事はするなという教えで、デンボ(おでき)と会社は大きくなりすぎたら潰れるというのが、長く経営に携わった父親の教訓だった。吉田は会社を大きくするなという言い付けこそ守らなかったが、他の2つについては固く守り通した。
 「手形を切らなかったことで、『これは』と思う厳しい局面もうまく乗り越えられた」。
 吉田は後にそう述懐している。

 ただ、創業当時から担保になるものがなかった。そのため、出店する際の資金はもっぱら銀行から借り入れた。そのビジョンメガネの生命線とも言える銀行との借り入れ交渉で吉田は天賦の才能を発揮する。
 吉田は決まってメガネ業界の夢を語った。メガネという商品がどれだけ面白いものなのか。市場規模は小さいが、やりようによってはいくらでも市場を創造できる、という話をする。通常、やりがちな投資効果や自社の事業計画は一切説明しない。

 例えば、こんな調子である。
 「支店長、メガネビジネスというのは健康産業であり、情報産業でもあるんです」。
 当時はコンピューターが出始め、情報化が急速に進んでいた。「情報産業」と聞くと、支店長の顔つきが少し変わった。
 「どうしてメガネが情報産業なんです?」。
 「そら、情報産業です。その証拠に支店長、試しに目をつぶって歩いてみなはれ、歩けまへんやろ。でも、目の悪い人にメガネという補助用具をつければ、0・1の視力が1・5になりよります。人間といのは情報の90%を目から得ているわけですから、その目を良くするメガネは情報産業です」。

 興味を持った支店長が、「そらそうだが、視覚に訴えるだけで情報産業とは言いきれないでしょう」と返せば、吉田は待ってましたとばかりにたたみかける。
 「実は、当社は創業当初から分不相応の投資をしておりまして。コンピューターで全ての顧客を情報管理しています。電話番号と生年月日を入力するだけで、お客さんがいつどんなメガネを購入されたか、奥さんはメガネをかけているのか、子供さんはどんなメガネをかけているのかが全て分かるようになっております」。
 吉田はそうやって相手の心をうまくつかんだ。

 実際、ビジョンメガネの優れた顧客管理能力を物語るこんなエピソードもある。
 ある時、京都府警の刑事が吉田のもとを訪れた。
 「おたくでは特定のレンズを購入した人を調べられますか」。
 そう言って刑事はレンズの破片を差し出した。吉田はすぐにそのレンズが、あるメーカーのレンズだということが分かった。吉田はすぐに社員に指示を出し、京都の店舗でメガネを購入したことのある30万人の顧客データから十数人の該当者を選び出した。

 「この中に探しておられる人物はいはりますか」。
 吉田が手渡したデータを見て、刑事は驚いた。リストアップした十数人がいつどの店舗で買ったのか、購入時間まで記されていたのだ。
その後、データは裁判の重要証拠として使われ、犯罪者を有罪に追い込む決め手となった。

 
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