“おもてなし”が夢を生む 〜タクシー業に賭ける親子100年の挑戦〜
第二部 多田精一(相互タクシー株式会社 会長)
3.21歳の大学生社長
だが、そんな平穏な大学生活を過ごしていた矢先、当時、入院中だった父・清から呼び出しがかかる。そして、言われるがままに赴いた病院で突然、「大阪相互タクシー株式会社(現・相互タクシー)の社長就任」を要請される。精一自身、漠然と「将来は父の後を継ぐのだろう」とは考えていたものの、まさか本体のタクシー事業を任されるとは夢にも思っていなかった。しかも、精一は当時、まだ大学3回生である。
精一は、父に問い返した。
「しかし、私はタクシー業界のことは何も知りませんよ」。
「これから勉強すればいい。帝王学は、教えてある」。
「でも、私はまだ大学生。こんな若造にみんながついてきてくれますか?」
「心配するな。私が会長として支えてやる」。
父・清の決意は、すでに固まっていた。
精一は厳格な父の要請に逆らえるはずもなく、ここに弱冠21歳の社長が誕生することになる。
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社長就任披露で演説する多田精一 |
車両台数は大阪、京都、神戸のグループを合わせて2000台以上。従業員は2500〜3000人。この大所帯の行く末が、精一ひとりの肩にズシリと乗った。これまでは自分に何ができるのかを自問自答しながら模索していたが、企業という巨大な社会はその「自分探し」をする時間までは与えてくれなかった。精一は、いきなり何か大きな力に引きずりこまれたような気がした。
「これから自分の人生は、どうなるのか」。精一は、大きな不安を抱えながら船出した。 |