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企業家・多田精一・相互タクシー株式会社会長

“おもてなし”が夢を生む 〜タクシー業に賭ける親子100年の挑戦〜

第二部 多田精一(相互タクシー株式会社 会長)

6. 会長就任の秘策

 現代的なビジネス感覚で大胆な政策転換を図った精一は、その後も新しいタクシー事業構築にまい進する。その一つが、グループ会社に社長権限を委譲し、自らは会長職に就く人事刷新である。

 バブル崩壊後の不況の中で、タクシー業界の競争は熾烈さを増し、利用者のニーズも地域によって大きな格差が出ていた。これらの多種多様なニーズに対応するには、経営にも迅速なスピードが求められていたのだ。

 精一は、「これまでのように、各グループ会社から本社にお伺いを立てて方針を決めていたのでは、手遅れになる。現場が地域のニーズをいち早く察知して、各地域に合ったサービスの提供を即断即決できる体制が必要」と考えた。

 平成 11 年には社長職を退いて自ら会長に就任すると、相互タクシー株式会社、京都相互タクシー株式会社、大阪相互タクシー株式会社の各グループ会社の社長を任命し、それぞれの社長に責任と権限を与えた。各社がそれぞれの社長のリーダーシップで動き出すと、それぞれの会社はグループ会社でありながら、それぞれのアイデンティティを持ち始めるようになった。

 相互タクシーは、大阪の中心という大都市をバックに、商業地の営業エリアを拡大して幅広い乗客層を取り込むとともに、 VIP など企業向けの高級車利用層を充実。また、京都相互タクシーは、伝統ある観光都市・京都を訪れる観光客を中心に、「心のおもてなし」を実践して乗客層を広げた。さらに、大阪相互タクシーは地方都市・堺の地域生活に根ざした小回りのきくタクシー会社としての特色を打ち出し、それぞれ三者三様の特徴を兼ね備えたグループ企業として生まれ変わった。

 高所からグループ会社全体を把握する精一は、今度は品質の確かさを国際的な機関が保障する国際品質保証規格「 ISO 9001」に目をつけた。当時は製造業者などで導入が相次いでいたが、「製品に品質があるなら、サービスにも品質があるはずだ」と意気込んだ。

 「父の時代から受け継がれてきたサービスには自信がある。そのサービスが、国際的に認められれば、値下げ競争が激しさを増すタクシー業界で“相互ブランド”を際立たせ、他社との差別化も図れるのではないか」。

 それが、精一の狙いだった。

 早急にグループの各社長が召集され、この件が諮られると、最初は驚かれたものの、魅力的な発想だと意見が一致。まずプロジェクトチームを立ち上げ、相互タクシーと京都相互タクシーが申請することになった。だが、 ISO 9001を取得することは精一が当初、考えていたほど甘いものではなかった。

ISO9001認証書

 「最初は、いまやっているサービスを文書化すればいいというぐらいに考えていたのですが、ひとつの書式に従ってサービスをマニュアル化することに非常な苦労を伴いました。最終的には、プロジェクトメンバーだけでなく、乗務員、社員を合わせた全社を挙げて多くの時間を費やしました。その過程で、実際に行っているサービスで欠けている点や弱点が分かり、さらにサービスを向上させ、社員の良質なサービスに対する意識もさらに高まった」。

    そして、平成 12 年 11 月、ついに相互タクシーと京都相互タクシーが ISO 9001を取得。これは、タクシー業界でも初の偉業となった。
 
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